革命/andymori

誰もが「思考停止しちゃいけない」と叫びたくなるこの状況で、「なんにも考えなくていいよ」と来た。

次のアルバムの名前が「革命」だと知ったときから、一体何を企んでいるのだろうと思っていたけど、結論から言うと、このアルバムの思想にどっぷり浸かることは非常に危険だと言いたい。

「楽園」に登場する、「無表情のピーターパン」と「不感症のシンデレラ」と「言葉を忘れてしまったミッキーマウス」は、無力感によって感情をなくし、他者に反応することをなくし、自分の感情を出せなくなってしまった者達だろう。朝日が昇っても夕日が沈んでも、嘘つきは死なないし争いは止まないし欲しいものは尽きないし悲しみは消えない、そういう世界にうんざりして辟易して、何も感じなくなって何も求めることをしなくなってしまった者達。

そんな3人はバンドを組む。バンドは新しい社会をつくることができる。だからユートピアだってつくることができる。自分達が「すごくいい」「素晴らしい」と思う社会をつくることができる。

ところでユートピアって何だろう、素晴らしい社会とは何だろうと思う。そんなことを考えていると「南へ南へ南へ南へ行く旅だよ」というフレーズが聞こえてくる。andymoriはしきりに「南」と「太陽」を歌うが、普段私たちが使うそれとは違う意味を持っている気がする。もっと原始的で、生と死の匂いがする。それは「熱が騒ぐ」という表現にもつながっている。エネルギーが生まれ、太陽によってさらに熱は上昇し、新しい思想や命が生まれ、生きて、そして死ぬ。

andymoriはもう既に死に場所を決めている。愛する人と、歌を歌うこと、その空の下で、「死ねるよ」って思っている。君が死んだときに何を残すのか、もう決めている。その迷いの無さは、潔さを越えて、怖い。もうそれしか見えていない、周りが見えていないからだ。その単純明快さには、羨ましさと同時に同意しかねる、飲み込んだら何か喉に引っかかるものを感じる。

それでもandymoriは迷わない。ケータイを落としてもサイフを落としても。「大丈夫ですよ/心配ないですよ」と歌う。どんなにダメでもどんなに失敗しても「なんにも考えなくていいよ」と歌う。本当に考えなくていいのか?そんなはずはない。でもandymoriのように死に場所を決めれば、andymoriの世界にいれば、何にも考えなくてもいいのかもしれない。もうこの時点で危険極まりない。

しかし「投げKISSをあげる」というのは随分と漠然としていないか。そういえば「パパパパパパパとファンファーレ」だって「潜って潜って潜って潜って潜って潜ってランランラン」だって、本当にいい加減で無責任だ。だけど、多分それこそがandymoriの望んでいるユートピアなんだろうと思う。陽気に踊って暮らすこと。遠くの誰かに愛を投げること。そしてandymoriが歌うと、その世界が立ち上がる。「銀河の果てにさまよう君に投げKISSをあげるんだ」というフレーズだって、文字にするととんでもない夢想家のとんでもなく無責任な言葉なのに、andymoriが歌うと強い決意の言葉になる。100日1000日10000日たった後で誰かの心に風を吹かせる言葉になる。

ああ、革命というのは、こんなに白昼堂々と、ゆったりと遂行されるものなのかと、肩の力が抜ける思いがした。

穏やかさと優しさに包みながら、陽気なリズムに熱をあげて踊らせながら、これこそが素晴らしくて普遍的な思想・価値であると血に染み込ませる、現在日本で一番恐ろしい問題作。


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