syrup16g Tour 20th Anniversary “Live Hell-See”

syrup16g Tour 20th Anniversary “Live Hell-See” が、2023年6月1日から7月13日まで全10箇所で開催された。

2003年にリリースされた 4th Album『HELL-SEE』の20周年を記念して開催されたこのツアーでは、当時と同じように本編は『HELL-SEE』をアルバムの曲順のまま15曲演奏するというスタイルで行われた。
そのため、次にどの曲をやるのかということは予め分かっていたのだが、にも関わらず、曲がはじまるたびに自分でも驚くほど興奮した。それは懐かしいからとかではなく、曲が始まるたびに『HELL-SEE』の曲のかっこよさに改めて気づいていったからだと思う。

アルバムの1曲目『イエロウ』のあのイントロが鳴った瞬間、20年前の心象風景が呼び起こされると同時に、今でも、というか今だからこそ瑞々しく鋭利に響くその音に、身体も心も今この瞬間の syrup16g に飲み込まれていった。

続いて『不眠症』という五十嵐隆の声だからこそ輝く繊細かつ大胆なロックナンバーが2023年のフロアに響きわたり、アルバムと同タイトルの『Hell-see』が20年前よりさらにひどくなったこの世界にずっしりとその存在感を残していく。『末期症状』『ローラーメット』ではドラムの迫力とくっきりと際立つベースラインの唯一無二さに、そういえばこのアルバムはベーシスト・キタダマキが本格的にレコーディングに参加し出した作品だったということを思い起こさせた。

『I’m 劣性』では <30代いくまで生きてんのか俺> を会場によって<50代いくまで生きてんのか俺> や <30代いくまで生きてたよ俺> などと変えて歌っていた。当時この曲を聴いていた頃は、こういう歌詞の曲って若くなくなったときにどうなるんだろうと考えたことがあったが、結果的にそんなことは杞憂に終わった。この曲の投げやりで鋭角に食い込んでくるかっこよさと <50代いくまで生きてんのか俺> <30代いくまで生きてたよ俺> などに含まれるユーモアが意外なほどマッチしていたからだ。それは今の syrup16gが鋭さと柔らかさを兼ね備えているからこそ実現できたことなのかもしれない。

また、『(This is not just)Song for me』が優しさと憂いを浮かべながら美しいメロディーを運んできたときには、このツアーのSEでずっと流れていたジョージハリスンとこの曲は近いところにあるのかもしれないと、ふと思った。うまくは言えないが、両者に共通する不思議な力強さを感じた。

『月になって』という静謐で究極に美しい曲が奏でられたかと思えば、このアルバムのある種のハイライトとも言える『ex.人間』が華麗に炸裂し、私のテンションは静かに爆発していった。

そして『正常』である。
『正常』は、2008年に武道館で行われた解散ライブでその凄さに気づかされた曲だった。あの日、『正常』を聴きながら、こんなに凄い演奏をするバンドがなんで解散なんてしなきゃいけないんだろう、とものすごく悔しい気持ちになったのだが、今回のツアーの、特に横浜で見た『正常』は、あの日を超えてくるくらいものすごい演奏だった。ドラムの迫力と底から這い上がってくるようなベースだけでも胸にくるものがあったし、そこに乗る五十嵐隆のギターと歌は宇宙まで届きそうなほど神がかっていた。そして、今のsyrup16g はあの頃よりもずっとバンドとしての一体感と艶やかさを増しているという事実を見せつけられた。

続く『もったいない』は、今回のライブの中で一番グッときた曲だった。なんというか『HELL-SEE』というものに込められた業がここですべて放出されたように感じた。

『Everseen』でめちゃくちゃに盛り上がり、『シーツ』「吐く血』というヘヴィーな曲を経て、ラストに辿りついた『パレード』では、12弦ギターの音が美しすぎて感動した。当時はこの曲にさみしさばかりを感じていた私だったが、今回のツアーでは不思議な暖かさも感じた。

アンコールでは最新アルバム『Le Mise blue』から3曲が日替わりで演奏されたのだが、豊洲で聴いた『うつして』には胸をうちぬかれた。五十嵐の「あーーーーーーーうつして ーーーー」という叫びが本当にとんでもなかった。私の心は自分でもびっくりするほど震えていた。私をこんな気持ちにさせるのは、やっぱり syrup16g しかいないと思った。

2回目のアンコールではそれ以外の過去の曲から、こちらも日替わりで3曲演奏された。横浜では『ソドシラソ』『天才』『リアル』という流れだったのだが、これがキレキレで本当にやばいかっこよさだった。3人ともかっこよかったし、バンドとしての噛み合い方も最高だった。

そういうわけで、今回のツアー “Live Hell-See”を通して感じたのは、『HELL-SEE』は syrup16g にしかつくれない、syrup16g にしか出せないロックのかっこよさが渦巻いているアルバムだということだった。『HELL-SEE』以前にこんなかっこよさのアルバムはこの世に存在しなかったし、『HELL-SEE』以後もそんなアルバムは syrup16g 以外には誰もつくれていないという事実を突きつけられた。

また、『HELL-SEE』リリース当時は、レコーディングにもライブにも参加していたとはいえ、「メンバー」というよりは「サポート」という立ち位置だったキタダマキが、再始動後はメンバーとして活動し、そしてこの “Live Hell-See” という旅の中で、誰が欠けても成り立たないsyrup16gというスリーピースバンドを、3人が3人で確かなものとして育てたのだという風に感じた。あの頃の不安定な syrup16g にはあの頃にしかない魅力が確かにあったが、今の syrup16g の安定して凄まじいライブでの演奏は、ロックバンドとして世界レベルなんじゃないかと時々思う。
また、そんな今の syrup16g の中でギターを掻き鳴らし歌う50代の五十嵐隆は、不思議なことに30代の五十嵐よりもロックスターに見える。ずっと目を閉じたり伏せたりして歌ってきた五十嵐が、今回は稀に目を開けていた瞬間があったことも、うれしい変化だった。

ロックバンドの凄まじさと業に唸らされる瞬間、音楽の豊かさに満たされる瞬間、音楽の楽しさに興奮させられる瞬間、誰にも見せない心の窓の中にあるものを交換する瞬間、そんないくつもの奇跡のような瞬間に溢れた“Live Hell-See”だった。そして、今までのsyrup16gもずっと好きだったが、今のsyrup16gが一番好きだと思った、そんな幸せなツアーだった。


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