音楽文

崎山蒼志という希望 -『嘘じゃない』に寄せて -

<嘘じゃない>淡々と、しかし、濁流の川の中、己の足でしっかりと立ち続けているような決意と強さを持って、崎山蒼志がそう歌っている。 何が正解かも分からないし正解なんてどこにもないのかもしれない状況で、何が真実かも分からないし真実なんて永久に藪…

進化する曲による季節と「BLUE」の移行 - A_o『BLUE SOULS』-

春から夏になった。 季節の移り変わりにも鈍感になってしまった生活の中で、2021年にも春があって夏が来たことを知らせてくれたのは、A_o の『BLUE SOULS』だった。『BLUE SOULS』は、今年4月にポカリスエットのCMソングとして流れ始めた。だが、この時点で…

「水たまり」から見える世界 - BUMP OF CHICKEN『なないろ』-

BUMP OF CHICKEN の『なないろ』を聴いて、気になったのは「水たまり」のことだった。<昨夜の雨の事なんか 覚えていないようなお日様を 昨夜出来た水たまりが 映して キラキラ キラキラ>2021年5月17日の朝に放送が始まった、主人公が気象予報士を目指すと…

CRYAMYと心 - 1st Full Album『CRYAMY -red album-』-

真っ赤なジャケットの真ん中に、無数の黄色い線でハートの形が描かれている。 CRYAMYが今年3月にリリースした 1st Full Album『CRYAMY -red album-』は、その細い無数の黄色い線のように複雑で厄介な「心」というものに肉薄しようとする、無謀さと情熱が渾然…

またうねり始める、DOESという生き物 - 復活ライブ『(R)evolution #0.5』-

DOESが再始動する。 その知らせが届いたのは、2020年の元旦だった。 4月から本格始動し、東京と上海でライブを開催するという。しかし、その知らせの翌月、新型コロナウイルスの感染が拡大した。当然の如く、東京公演は中止に、上海公演は延期となった。なん…

神聖かまってちゃん『僕の戦争』

神聖かまってちゃんの『僕の戦争』が、Billboard Japan Top Download Songs ランキング 1 位、オリコン デイリーデジタルシングルランキング 1 位にチャートインした。『僕の戦争』は、TVアニメ『進撃の巨人』The Final Season のオープニングテーマであり、…

二次元から三次元へ - 女王蜂『夜天』が呼び戻す身体性 -

アヴちゃんが発した <宿る> という三文字の肉声で、スイッチが切り替わった。女王蜂が 2021年1月27日にリリースしたシングル『夜天』。 この曲の始まりは、二次元の世界を想像させる。 ゲーム音楽のような電子音に、エフェクトがかかったアヴちゃんのファ…

「生」の側に踏みとどまらせる、「セルフケア」としての音楽 - Base Ball Bear『ドライブ』 -

単音のギターと小出祐介の声が長く長く伸びていく。 それはまるで深呼吸をしているかのようだ。 新しい空気をゆっくり吸って、体の中にあるものをゆっくり吐いていく。Base Ball Bear が今月リリースした『ドライブ』は、「セルフケア」がテーマの曲なのでは…

コンバースを履き続けているすべての人へ - GLASGOW 1st Album『twilight films』-

ファーストアルバムで、ここまで洗練された世界を完成させることができるものなのか。 今月リリースされた GLASGOW の『twilight films』は隅々まで美しさと眩さに満ちていて、いつまでも聴いていたくなる。GLASGOW の曲は、どの曲もただひたすらに気持ちい…

ロックンロールと風 - a flood of circle『2020』-

a flood of circle(以下「フラッド」)の『2020』、このアルバムが、今年の鬱憤を根こそぎ晴らしてくれた。まるでライブが始まるかの如く、バンドで「せーの」で音をぶつけ合って、1曲目『2020 Blues』が幕を開ける。カッティングギターとピックスクラッチ…

再考 syrup16g『負け犬』 - 19年の時を経て顕在化したもの -

先日、syrup16g の YouTubeチャンネルが開設された。 そこに一番最初に公開された映像は、『負け犬』の MV だった。『負け犬』は、2001年にリリースされた syrup16g のファーストアルバム『COPY』に収録されている曲だ。 今から19年も前に世に放たれた曲であ…

sleepy.ab が創造する「もうひとつの世界」 - 配信ライブによって深化した「 1人になれる音楽」-

2020年9月19日、sleepy.ab による生配信ライブ「fractal on Line @ 札幌芸森スタジオ」が行われた。sleepy.ab は今年の1月に、7年ぶりとなる新作アルバム『fractal』をリリースしたが、これに伴うツアーは新型コロナウイルス感染拡大防止の為、全て延期にな…

サンボマスターじゃなきゃだめだった - 2020年の FUJI ROCK FESTIVAL -

「FUJI ROCK FESTIVAL ’20 」の私のベストアクトはサンボマスターだった。今年のフジロックは、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、来年の8月に延期されることになった。 そこでフジロックは「Keep On Fuji Rockin’」を合言葉に掲げ、本来の開催予定…

CRYAMYから受け取ったすべてのこと - 配信ライブ『CRYAMY presents 100分』と 2nd SINGLE『GUIDE』-

2020年6月13日に、CRYAMYによる無観客生配信ライブ『CRYAMY presents 100分』が行われた。まず、少し長くなるが、この配信に至るまでの経緯、CRYAMYの歩みと自分の心の動きについて、記録しておこうと思う。CRYAMYは2019年末に『#3』というEPをリリースし、2…

薄氷の上の令和に響く、新しい音楽。 - Tempalay『大東京万博』-

Tempalay の『大東京万博』を聴いていると、まるでここ数ヶ月の東京や日本のことが歌われているみたいで、ぞっとする。『大東京万博』がリリースされたのは今年の2月26日なので、制作していた頃にはまだ現在のような新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う状…

神聖かまってちゃんが10年目に繰り出すカウンター - 10th Album『児童カルテ』に寄せて -

2020年の幕開けに、デビュー10周年を迎えた神聖かまってちゃんが、10枚目となるオリジナルアルバム『児童カルテ』をリリースした。 この『児童カルテ』は、神聖かまってちゃんの最新作にして最高傑作だ、と私は思う。その理由はいくつかあるのだが、そのうち…

Negative Campaign 『Negative Campaign Ⅱ』

救いがない。Negative Campaign が2019年11月にリリースした2nd Album『Negative CampaignⅡ』。 このアルバムの曲の歌詞には、まるで救いがない。1曲目の『Primitive』から、もうどうしようもない。 ミュートしたカッティングギターに乗せて歌われる <そう…

半年遅れの「CRYAMYとわたし」

2000年代が「syrup16g」で、2010年代が「神聖かまってちゃん」なら、2020年代は「CRYAMY」だ。何を大袈裟な、とあなたは思うだろう。でもそれぐらいの衝撃だった。 あなたは覚えているだろうか、syrup16g の『生活』を初めて聴いたときのことを。 神聖かまっ…

People In The Box 『Tabula Rasa』

2019年9月、People In The Box(以下「ピープル」)が 7枚目となるアルバム『Tabula Rasa』をリリースした。1曲目の『装置』を再生し、ピアノの音が流れると、どこか懐かしい感じがした。しばらくして、この感触は『ヨーロッパ』だ、と思った。『ヨーロッパ…

一人で始める、一人から始まる。- the chef cooks me『Feeling』-

the chef cooks me(以下「シェフ」)のニューアルバム『Feeling』は、0秒目から歌で始まる。1曲目『Now’s the time』にイントロはなく、下村亮介のつぶやきのような独白のような歌で厳かに幕を開ける。アルバムがいきなり歌から始まること自体は、シェフに…

Now Playing Negative Campaign - ありきたりのその先へ -

ある雑貨店のBGMでかかっていた曲が気になって、店内のビジョンを見上げると “Now Playing Negative Campaign” という文字が映し出されていた。咄嗟にスマホにその文字列を入力し、家に帰ってから検索してみたら、BGMでかかっていたその曲がすぐにYouTubeで…

1983年生まれのアンセム - MASS OF THE FERMENTING DREGS『No New World 』-

2018年の夏は、MASS OF THE FERMENTING DREGS(以下「マスドレ」)の『No New World』ばかり聴いていた。『No New World』は、前作から実に8年ぶりとなるマスドレの最新アルバムだ。そのアルバムに、マスドレは『New World』ではなく、『No New World』と名…

魔法が解けた後の世界 - 土井玄臣『針のない画鋲』-

京都にとあるブックカフェがある。そこは「一人客」しか想定していないカフェだ。古びたビルの一室の重い鉄のドアを開けると、三方の壁に向かってコの字型にカウンターと椅子が置かれていて、カウンターの奥にはカバーを外した文庫本が並んでいる。客はみな…