syrup16g 結成30周年記念公演
「syrup16g 30th Anniversary " Closer / Further "」in NHKホール
1日目 2026年3月13日(金) 「 Closer 」
1. きこえるかい
2. Sonic Disorder
3. 無効の日
4. 末期症状
5. HELPLESS
6. 月になって
7. I.N.M
8. Dinosaur
9. 吐く血
10. ( I'm not ) by you
11. 新曲
12. 新曲
13. 新曲
14. coup d'Etat
15. 空をなくす
16. Drawn the light
En1
17. 生きているよりマシさ
18. 落堕
19. 真空
En2
20. 正常
21. Les Misé blue
3月の東京は寒い。渋谷の空は白く、どこまでも曇りだった。
NHKホールに来たのは、2015年の「Kranke」ツアー以来で、あれからもう11年も経ったということがうまく理解できない。それよりさらに前の 2007年の「End Roll」と 2013年の「生還」の記憶も蘇る。
1日目は2階席だった。
19時、『virgin suicide』が流れる中、1996年のバンド結成から今日までのシロップの歩みがビジョンに映し出される。いろんなことがあったなあ、と感慨に耽る。最後に最新のアー写が映る。かっこいい。
五十嵐がギターを弾く音が聞こえる。『きこえるかい』だ。
この最初の『きこえるかい』で、なぜかもう涙が出てきてしまった。それは武道館での『きこえるかい』や、解散を発表したNHKホールでの『きこえるかい』が頭をよぎったからでもあるが、それ以上に、五十嵐が今の五十嵐自身や今の私たちに向けて呼びかけているように感じたからだ。曖昧でぼやけた自分の現在地が、五十嵐の声とシロップの演奏とこの曲によって、何らかの形を与えられたような感じがした。
また、2007年、2008年には遠くに行ってしまうと感じていた曲が、今日はこんなにも近くにあるという事実に、涙が出たのかもしれない。
2曲目は『Sonic Disorder』。「生還」でも『Sonic Disorder』が2曲目だったことを思い出す。この曲で紗幕が上がったときに、中畑さんとキタダさんがステージにいることがわかったのだ。いま当たり前のようにこの2人がいつもステージにいるのは、本当は奇跡なんだよなあと思う。イントロのジャムっている感じが、落ち着きの中に躍動があってかっこよかった。最後に足を蹴り上げた五十嵐もかっこよかった。
『無効の日』は、後半のベースとドラムがかっこよかった。そこに乗る五十嵐の声もめちゃくちゃいい。続く『末期症状』も半端ないかっこよさだった。叫ぶ五十嵐、声が伸びまくる五十嵐、キタダさんの動きまくるベース、中畑さんの高速ドラム。
五十嵐が、「五十嵐と、中畑と、マキさん」とメンバー紹介して「曲振りしたんだけどね」と言ったので『 I.N.M 』をやるのかと思ったら(五十嵐=I、中畑=N、マキさん=M)、曲順を間違えていたみたいで、「気にしません」と言って『月になって』(「気にしてないから」で始まる)が演奏された。
で、その次が『 I.N.M 』だった。
この日の公演には「Closer」というタイトルがついていたが、セットリストを振り返ってみると、確かに「半径5m以内」を感じる曲が多かったと思う。だが、その中でも『 I.N.M 』は「近い」というかもはやゼロ距離だなと思った。I.N.M = I need to be myself、OASIS の『Supersonic』にも「 I need to be myself」という歌詞があるが、「自分」という一番近い、ゼロ距離のものと向き合ったこの曲の褪せることのない凄まじさに気づかされる。
< 俺は俺でいるためにただ戦っている精一杯 >、それが今どれだけ大切なことかを痛感する。それは絶対に手放してはいけないものだ。それから、< 無視しきれないとまどいに転がされてけよもう一生 >で拳を上げた五十嵐に気持ちを持っていかれた。歌い方にも熱が入っていて、思わず胸を打たれてしまった。
『(I’m not) by you』は、美しすぎるバンドアンサンブルで、言葉にならない果てしなさを感じた。
新曲を3曲もやったのも嬉しかった。シロップが現在進行形で曲をつくり、それをライブで演奏しているということ、それは未来があるっていうことだからだ。
そして『coup d'Etat』のイントロが鳴り、ステージのバックに「syrup16g」のロゴが映し出される。めちゃくちゃかっこいい演出だ。五十嵐が「3回目、30年目。行くよ。」と言った。声が聞こえたら五十嵐の声だ。ああ、大好きだ、シロップが。どうしようもないくらい、大好きだ。
この『coup d'Etat』~『空をなくす』こそが「syrup16g」だよな、と思う。この「空をなくす」という距離感覚こそが syrup16g だ。その演奏は、ちょっと頭がおかしくなってしまうくらいかっこよくて、私は心の底から笑顔になった。シロップは本当にかっこいいロックバンドだ。
そこから『Drawn the light』のイントロでジャムっているのも良すぎて、ずっと興奮していた。ギターの音がかっこよすぎた。
アンコールの1曲目は『生きているよりマシさ』。再始動の曲であり、シロップ復活の曲だ。それが30周年の今日演奏されているのを聞いていると、あのときもう一度表舞台に立つことを決めた五十嵐の気持ちを考えてしまった。その前にどれだけの苦悩があったのだろうかということも。もう一度 syrup16g が始まるという奇跡の裏にあった、それを決めた中畑さんとキタダさんの気持ちも。そういうこともあって中畑さんのコーラスになんかすごく胸を打たれた。シロップをやり直せた五十嵐は本当にすごいし、復活後の方がバンドとしてどんどんかっこよくなっているシロップは本当にすごい。これは本当に凄すぎることなんだって改めて思う。
『落堕』では五十嵐がハンドマイクで歌ったり、モニターに座って歌ったりしていて、ロックスターだった。ホールでもこんなに興奮させてくれるなんて、すごい曲だしすごい演奏だ。
『真空』の始まりのギターとドラムの応酬も良すぎたし、中畑さんの「ロックンロール」でまたぶち上がり、何もかもが最高だった。
2回目のアンコールは『正常』。圧巻。やばすぎる。こんなすごいバンドに出会えて本当によかったなあ。
最後は『 Les Misé blue 』。とても暖かい空間だった。私もシロップの仲間になれているのだろうか。わからないけど、その空間が穏やかで暖かくて居心地のいい空間であることだけは確かだった。そんな素晴らしい空間に、syrup16g が30年目に辿り着いたことが、嬉しくてたまらなかった。
2日目 2026年3月14日(土) 「 Further」
1. Reborn
2. 明かりを灯せ
3. Don't Think Twice ( It's not over )
4. 生活
5. 神のカルマ
6. 遊体離脱
7. Hell-see
8. 変態
9. 天才
10. 希望
11. 新曲
12. 新曲
13. 新曲
14. 宇宙遊泳
15. リアル
En1
16. タクシードライバー・ブラインドネス
17. パープルムカデ
18. ex.人間
En2
19. She was beautiful
20. Thank you
21. 翌日
2日目は1階席だった。
インスト曲(多分2005年頃のCDJで演奏された曲)が流れる中、結成からの歩みがビジョンに映し出されるが、昨日とは映像が少し異なる。武道館の映像がわりと多めだった気がする。『再発』で五十嵐と中畑さんがお客さんを覗いているバックショット、そういえばあったなあ。あの写真好きだった。
いきなり『Reborn』で始まる。武道館の最後の曲であり、生還の最初の曲だ。解散からも生還からもずいぶん遠くへ来たものだなあと思う。貫禄を感じさせる『Reborn』から『明かりを灯せ』への流れがとても綺麗で見惚れてしまった。身体の中がやわらかい明かりで満たされていくようだった。
五十嵐が「おい!」と叫んで始まった『生活』では、会場が一気に波打つ感じがあった。曲が持つ求心力の強さに改めて驚かされる。また、2日目の公演タイトルは「Further」だったが、『生活』は確かに「遠さ」を感じる曲だとも思った。手が届きそうで、ずっと届かない。どうしても届かない。
この日は他にも「Further」というテーマを感じさせる曲が多かったように思う。特に『遊体離脱』『宇宙遊泳』『リアル』では、圧倒的な遠さや、音に遠くまでぶっ飛ばさる感覚や、宇宙を見せられているような感覚があった。
また、『神のカルマ』『Hell-see』『パープルムカデ』『ex.人間』をやった意味にも思いを馳せた。あの頃は遠くであったことが、今はすぐ近くにまで迫っている。『Hell-see』の音の凄まじさが、その遠近感を表しているかのようだった。
それから、この日も新曲を3曲もやったのだが、どの曲も好きな感じですごくよかった。シロップにしかないコード進行や雰囲気を持った曲ばかりで、これから先がまた楽しみになった。
そして2日目は『宇宙遊泳』でステージのバックに「syrup16g」のロゴが出現。宇宙空間にバラバラに散らばる個が、syrup16gで繋ぎ止められている感じがして、なぜか壮大な安心感がもたらされた。
本編最後の『リアル』の全てを絞り出すかのような五十嵐とバンドの姿も本当にかっこよかった。そこに命があって生きている、その重みと確かさを感じた。(この日のライブでは特に『天才』と『リアル』の演奏が凄かったなあと思う。『天才』かっこよすぎて震えたよ。ギターソロかっこよかったなあ。)
アンコールで出てきたキタダさんが着ていた漢字Tシャツは、五十嵐が間違えて書いた字がテープで修正されていた(笑)「間違った知識をね、直さないと」というキタダさんに「次は間違えないから~、ごめん」と言う五十嵐。あ、「次」があるんだ、っていうことがうれしくて安心した。
そこからの『タクシードライバー・ブラインドネス』もめっちゃよかった。大好きな曲だ。Tシャツにパーカーを着てSGを弾きながら『タクシードライバー・ブラインドネス』や『パープルムカデ』を歌う五十嵐を見ていると、一瞬2003年や2004年かのように思えてクラクラした。あの頃の曲がずっと自分の中にいて、ずっと大切なままだ。
それから五十嵐の提案で『ex.人間』の<あーあ>をコール&レスポンスした。これは初めての試み。< これは僕の作品です/愛すべく作品です > の歌い方がかっこよくてグッときた。両手で3本指を立てて「さんじゅう」って言いながらハケた五十嵐が楽しそうで、よかったなあって思う。
2回目のアンコールは『She was beautiful』。あまりの美しさに息をのむ。それはあの頃から遠く離れたからこその美しさなのかもしれない。
そのあとは『Thank you』が来て、びっくりしたけどうれしかった。これもめちゃくちゃ好きな曲だから。バンドやってたらずっと青春だよなあと思ったし、五十嵐はずっと何も諦めちゃいないんだということがわかって、また涙が溢れてきた。五十嵐がマイクを通さずに「ありがとう!」と叫んで、私はもう涙が止まらなくなってしまい、そこから『翌日』のイントロが鳴って、もうずっと泣き続けていた。
そして、ぼんやりと『翌日』って一番「遠い」ものかもしれない、と思った。来るかどうかわからないからだ。そんな果てしない「翌日」を積み重ねて、シロップは今日この場所に辿り着いたのだ。
キタダさんが五十嵐を見ながらベースを弾いていることも、中畑さんが笑っていることも、最後に五十嵐が中畑さんの方を向いてギターをかき鳴らしていることも、あの頃から見たらそのすべてが来るかどうかわからなかった『翌日』だった。<ふがいないまま僕が> で胸のあたりを掻きむしったり胸を拳で叩いたりした五十嵐が <形に起こせないすベて> を歌わずにちょっと笑っているように見えた瞬間、もうなんかすべてが報われたような気さえした。
「Closer / Further」と銘打たれた2日間を振り返ってみれば、近いはずのものが遠く、遠いはずのものが近かった。半径5m以内の世界にあるはずのものがどうしても手が届かないほど遠かったり、心理的な距離はとても遠かったりすること。遠いはずの果てしない宇宙になぜか手が触れてしまうこと。また、時間の経過によって、あのころ遠かったものが近くなり、あのころ近かったものが遠くなったこと。そういった一筋縄ではいかない、この30年の様々な視点からの「遠近感」を感じさせられるライブだった。
そして、30周年のシロップは実に瑞々しかった。ギターの音がフレッシュで豊かで、バンドサウンド全体も水を含んでいるかのような潤いとしなやかさがあった。また、あの頃と変わったところもあるし、変わらないところもあるが、その中で改めて実感したのは、凄まじい曲と歌詞だということだ。それが立て続けに演奏されるのを聴いていると、この30年は五十嵐隆が、syrup16gがもがき続けた30年なのだということを再確認させられた。
近くで、遠くで、闘い続けた30年。そのすべての一瞬一瞬のかけがえのなさを突きつけられて、何度も涙が溢れたし、そのすべての一瞬一瞬に全力で拍手を送った。それは、私にとっても一言では表せない、愛しさも絶望も虚しさも救いもないまぜになった、シロップと共にあった時間だった。
あの頃と変わらない Badcat のアンプの光が涙で滲んで見えた。
『きこえるかい』も『正常』も『翌日』も、そこで終わるためじゃなくて、次に続いていくために鳴っていた。そして新曲を6曲もやった。五十嵐は今も何も諦めていない。それが伝わってきた。
私はそれを見て、五十嵐が、シロップが、明日を諦めないのなら、これからも続いていくのなら、どんな現実でも諦めちゃいけないなと思った。日に日に世界が悪くなるけど、諦めちゃいけないんだ、だって五十嵐が諦めてないんだから。理由なんてそれだけでいい。そういうものをたくさん受け取った2日間だった。
P.S. 「みんな綺麗やで」と言って写真を撮った中畑さん、あなたが一番綺麗やで。