Family Record

「Family Record」は2010年10月に発売された、People In The Boxの6枚目のCDです。

オフィシャルサイトに「100人いれば100通りの感じかたを呼びおこす」作品だと書いてありましたが、本当にそうだなと思います。

私が「Family Record」を聴いて感じたのは、「父的権力の崩壊を愉快なこととして描いている」ということです。

Family=家族というのは、最小単位の集団です。集団である家族の中にはヒエラルキーが生まれます。国家の中にヒエラルキーが生まれるように。家族の中で子供は仮面をかぶり、国家の中で国民は仮面をかぶります。「アメリカ」という曲で<強くなることは とても恥ずかしい 本当はね><勝ち続けろって声に耳を貸すな 紙幣の積み木 批評家たち>と歌っているのは、トップ権力への懐疑と嘲笑に聞こえました。

今までの作品を聴いて、私はPeople In The Boxの歌詞によく出てくる「鳥」「飛行機」から性欲と暴力を連想し、「スカート」「空港」からは母性を連想していました。今作はそれに加えて、「紙幣」「株価」「経済」「クレジットカード」「小切手」「政府」といった単語が登場します。これらは世界を回す(と信じられている)ものです。

だから、「JFK空港」は、権力が動かしている世界が崩壊していくのを見るようで、私にとって痛快でした。

もちろん、この作品には、そんな理論で説明できないくらい痛快な場面やハッとする場面が他にもたくさんあります。だからまだまだずっと聴き続けると思います。一番好きな曲も、買ったときから何回も変わってきました。今は「新市街」が一番好きです。2枚目の「Frog Queen」に収録されている「バースデイ」の中に<バイオリン、コントラバス、チェロ、ティンパニ、ホルン>というフレーズがあり、ただの楽器の羅列がPeople In The Boxにかかるとこんなにとんでもないことになるのか!と感動したのですが、「新市街」の<ぜんまい、モーター、シリンダー 不揃いのボルト>というただの機械部品の羅列にも相当癖になるものがあります。

People In The Boxを聴くと、いつも新しい発見があります。それは、密室だと思っていた部屋に小さな隠し扉と体が小さくなる薬が入った瓶を見つけるような発見です。「なんだ、出口はあったんだ」「こんな簡単な方法で脱出できるんだ」と気づくことは、価値の転換でもあると思います。