2024年7月27日(土)12:40
FUJI ROCK FESTIVAL ’24 WHITE STAGE
setlist
1 パープルムカデ
2 coup d’Etat
3 空をなくす
4 生活
5 神のカルマ
6 Sonic Disorder
7 明日を落としても
8 翌日
9 宇宙遊泳
10 Reborn
フジロックで syrup16g を見るのが夢だった。
UKPラジオで五十嵐さん中畑さん出演回の質問を募集していたときがあって、「フジロックに出たいと思いますか?」という質問を送ったこともある。
どうしてそんなにフジロックでシロップを見たかったのか。
それは、シロップってライブがめちゃくちゃかっこいいバンドで、迫力もグルーヴも一級品だから、あのフジロックの自然の中のでかいステージでやったら、めちゃくちゃすごいことになるだろうなと思ってたからだった。マイブラやオアシスやコールドプレイを見たフジロックで、シロップのライブを見てみたかった。
syrup16g 再始動から10周年の2024年、その夢が叶うことになった。
FUJI ROCK FESTIVAL ’24 出演決定。その知らせを初めて見た時は、夢じゃないかと思った。すぐには信じられなかった。しかも、ホワイトステージだったらいいな、と思っていたら、ホワイトステージ出演が発表された。夢みたいだった。
そしてついにその日がやってきた。7月27日。
朝は涼しかった苗場にだんだん太陽が照りつけてくる。
20年前に別のフェスに出たときは「晴れたら出ない!」と言っていたほど太陽や炎天下が苦手な五十嵐が、真夏の真昼の炎天下でライブする日がまたやって来るとはなあ、と感慨深くなる。
12:40、ステージに3人が登場。五十嵐はダブルピースをしながら出てきた。歓声が飛び拍手が沸き起こる。
五十嵐が「みんなお待たせ」と言い、ギターを弾き始めた。
『パープルムカデ』だ!!!
まさか『パープルムカデ』から来るとは!!!と、あのダダダ、ダダダ、というリズムに興奮していたが、よく考えれば、これはフジロックという大舞台、そして世界中に向けて配信されている中での syrup16g の1曲目であり、五十嵐なりの表明なのだと思った。『パープルムカデ』というのはそういう曲なのだ。
しかしなんてかっこいい曲なんだろう。間奏でリズムが変わるところとか五十嵐の叫びとか異常なほどのかっこよさで、それがでかいホワイトステージから繰り出されて苗場の空に響いていく。
< 俺は俺のままで > とか < 君は君のままで > とかそういう曲は数あれど、それに続くのが「そのままでいい」とかじゃなくて <下敷きになる> というのがどうしようもないほどリアルで、その痛い現実があのリズムに乗せてぶっ放されていくのを見ていた。私は今、目撃者なのだと思った。
< 声が聞こえたら > という五十嵐の声が聞こえてきて、もうみんなさっき以上に興奮しているのがわかった。早くも大合唱だ。そして『coup d’Etat』が来たらその後はもちろん『空をなくす』。この野外の空の下で『空をなくす』。最高だ。中畑さんのめためた叩くドラムが、野外だからどこまでも遠くまで響き渡っていく。
そして『生活』のイントロが空を切り裂くように鳴り響く。< それはまだ > < それも無駄 > の大合唱。諦めながら続く生活が、まさかフジロックにつながっていたとは。< そこで鳴っているのは目覚まし > という絶望が炎天下の熱とぶつかって弾け飛ぶように感じられた。
続く『神のカルマ』では、キタダさんの動くベースラインに、ストンと真っ直ぐに落ちる中畑さんのドラムが絡み、五十嵐の気怠い声が熱を帯びた空気の中を漂うと、再び今の世界にバンドや音楽がどう対峙するのかということを考えさせられた。今ここにいる自分がこの世界とどう向き合うのかということも。
『Sonic Disorder』のイントロのベースをキタダさんがクールに弾き始めると、またしても歓声が上がる。オールバックのキタダさんの佇まいが、今日はいつも以上にかっこよく感じる。みんなジャンプしたり拳を上げたり、すごい盛り上がりだ。シロップの壮絶な演奏も客のテンションも加速していき、曲の最後までどんどん、どんどんヒートアップしていった。
そこから『明日を落としても』が始まったときは息を呑んだ。フェスでこの曲をやるのか。五十嵐の切実さと赦しを孕んだ声が響いて、気づいたら泣いていた。なんて曲だ。必死にギターを掻き鳴らし、必死に歌う五十嵐をただ見つめていた。あくまでも音楽の中ですべてをさらけだすその姿を見て、この人は間違いなくロックスターだと思った。
あと、中畑さんが手でシンバルを一発叩いたのが、なんかめっちゃかっこよかった。
『翌日』はどこまでも青く透明で、フジロックにめちゃくちゃ似合っていた。syrup16g の始まりの曲が、こんなにフジロックにぴったりの曲だったなんて、この日まで知らなかった。シロップの曲の美しさが自然の中で映えまくっていた。
ここまでは解散前の初期の曲だったが、ここで再始動後のアルバム『Hurt』から『宇宙遊泳』。ひとりひとりの孤独の果てにこんなに <ブッ飛んだ景色 > があって、中畑さんはずっと嬉しそうに笑っていて、五十嵐は暑さの中で力を振り絞っていて、キタダさんはとにかくかっこよくて、ほんとにシロップはすごいことをやってきたバンドだよ、と思った。
ラストは『Reborn』。やっぱり五十嵐の声ってすごい。すべてを浄化していく。最後、ステージのライトが客の方に向かってバッと明るくなったときは、武道館を思い出さざるを得なかった。でも今日は、太陽も客電だった。あのときとは違う。今の syrup16g には次の予定だってあるのだ。しかも、次も野外だ。
中畑さんがMCで「フェスに出るのは20年ぶり。あ~だから20年出れなかったんだ、っていうライブをしてしまうかもしれません」みたいなことを言っていたけど、全然そんなことなかった。それどころか、なんで今まで出れなかったのか意味不明なほど、この日のシロップはかっこよすぎた。もっと早く出てもよかったんじゃないか、と思ったけど、今が一番いいタイミングだったのかも、とも思った。シロップの曲の圧倒的な独自性と美しさと、迫力の演奏と3人の絶妙なアンサンブル、そういった今のシロップの魅力が全部詰まったライブだった。
ライブが終わって、ホワイトステージのハイネケン売り場で生ビールを買って飲んだ。今までフジロックで飲んだビールで一番おいしかった。
一度は「LIVE FORVER」というタイトルの武道館公演で解散したバンドが、16年の時を経て、ノエルギャラガーがヘッドライナーを務める2024年のフジロックに出演し、圧巻のライブをしたのだ。そしてなんと翌日、ノエルギャラガーがアンコールで『LIVE FOREVER』を歌ったのだ。諦めないほうが奇跡にもっと近づくのかもしれない、柄にもなく心からそう思えた2024年のフジロックだった。