2019年1月

今月は風邪で寝込んでしまい、その間に spotify でいろいろ聴いてみた。

■「Harmony Hall/2021」VAMPIRE WEEKEND
■ 「A Brief Inquiry Into Online Relationships」The 1975
■「じゃぱみゅ」きゃりーぱみゅぱみゅ
■「Stray Dogs」七尾旅人

なかでも、きゃりーぱみゅぱみゅにハマってしまった。ああ、やっぱり私は中田ヤスタカが好きなのか。もう好きだと認めざるを得ない。
「原宿でいやほい」「ワンツーいやほい」って天才か。このレベルの言い回しに対抗できるのってもう五十嵐隆くらいしかいないでしょ。
それで一番おそろしいのは、音がもう原宿そのものなんだよな。DAOKOの「ぼくらのネットワーク」の音が渋谷そのものだったのと同じように、「原宿いやほい」の音は原宿そのものなんですよ。ただ楽しくてカラフルなだけじゃなくて、魔界であることがちゃんと分かる音になっている。すごい。

私は結局、小室哲哉とか中田ヤスタカが好きなんだよな。軽薄に見せて、本当はすごく作り込んでいて、時代を掬い取っているんだけど、個人の中に入り込んでくる感じ。それが、建前と世間体に溢れた日本でぎりぎり成立するポップミュージックなのかもしれない。

そういえば、前に、七尾旅人が「I′m proud」を弾き語りで歌ったことがあって、すごく良かった。この前、NHKの「おやすみ日本」という番組に七尾旅人が出ていて、「ストリッパーのお姉さん」という未発表曲を演奏しているのを聴いて、なんかそれを思い出した。「ストリッパーのお姉さん」も、すごく良い曲だった。  




「ぼくらのネットワーク」(DAOKO × 中田ヤスタカ )と、冬の渋谷

テレビから流れてくる CMソングに耳を奪われたのなんて、一体いつ以来だろう?
CM冒頭の「イエーイエーイエーイエー」という、たったそれだけを聴いた途端、思わず背筋が伸びた。

「なんだこの曲は?」

すぐに調べた。中田ヤスタカだった。なるほどな。


でもさ、そもそも DAOKO の声って耳をひくじゃないですか。今までも CMで「打上花火」とか「もしも僕らが GAME の主役で」とかが流れたら、すごく耳に残ったじゃないですか。でも「ぼくらのネットワーク」には、それとは違う、直接細胞に入り込んでくるような、圧倒的なものを感じたんですよ。これは何なのだろう。

で、これが何なのかは分かんないんだけど、私は「中田ヤスタカ」的なものが思ったより好きなのかもしれない。

中田ヤスタカって、本当のところはよくわからないんだけど、私の中では「センス」なんですよ。世の中の、暗黙のルールとか順序とか「こうあるべき」みたいな何かとか、そういうのをセンスひとつで飛び級しちゃう。だから、たまに、中田ヤスタカって、おぎやはぎの小木さんぽいなって思うんです。センスだけで行っちゃう。(余談なんですが、小木さんが昔タワレコで働いてたって知ってました? 私は最近知りました)

私は、あんまり努力とかに価値を見い出せなくて、「努力して手に入るものだったら別にいらないな〜」などと思ってしまう人間なので、中田ヤスタカの「センスだけで行くぞ」っていう音に反応しちゃうのかもしれない。

あと、たぶんこの曲は、「冒頭の10秒で仕留める」ってもう心に決めて作った感じがするんですよね。なんか、その、「一発で仕留めるぞ」みたいなのも、私はすごく好きなんですよ。だって、一発とか10秒でダメだったら、もう結局ダメじゃないですか。その潔さが、たぶん好きなんです。ダラダラやるのって好きじゃないんですよ。


それから、MV の舞台になっているのが渋谷の街で、なんかそれがすごくこの曲に合っていてよかったのと、ここからは個人的な話になるんですが、私は渋谷がとても好きなので、それもあって興奮したんですよね。

私がよく渋谷に行っていた頃、まだ HMV があって、タワレコに行ってから HMV に行くっていうレコードショップはしごをよくしていたんです。(その後レコファンにも行ったりしてね)インストアライブとかもよく行ったなあ。
それで、この MV で、DAOKO が LOFT のところの坂を降りてきて FOREVER 21 に向かって横断歩道を渡るじゃないですか。この FOREVER 21 がまさに昔 HMV があった場所で、私はタワレコから HMV に行くときに LOFTの前の道を通っていたので、あのときHMVに向かって行っていたときと全く同じ視界なんですよ。

だから、MV 見ていたら、冬の渋谷にすごく行きたくなっちゃいました。MV の DAOKO の衣装だけじゃなくて、ずっと流れている丸みのある電子音も、すごく冬っぽいんですよね。冬の空気そのものみたいな音だなって思いました。


あと、歌詞に「シンフォニー」「BPM」「奏で」「音色」という、音楽に関する言葉をけっこう入れてきているんですよね。「音楽で繋がろう」みたいな寒いことは絶対言わないで、歩く足音とか街のざわめきとか、そういうのが集まって、いつの間にか音楽になって、最終的にみんなで踊っているみたいなのが、本当にいいなって思いました。



DAOKO × 中田ヤスタカ「ぼくらのネットワーク」MUSIC VIDEO



女王蜂の歌詞が好き

女王蜂ってまず存在感が凄いし、楽曲とか声とか演奏とかビジュアルとか色んな魅力が盛りだくさんなバンドなんですけど、歌詞も大好きなんですよ。

私が特に好きなのは『緊急事態』っていう曲の歌詞なんですけど、

 ああ ただ増えてゆくようで減ってゆく日々を
 使い果たさず出会えたこと自体 緊急事態

っていうサビのフレーズを初めて聴いたとき、なんかすごく「じーん」としちゃったんです。

この歌詞って、要は身も蓋もない言い方にしてしまうと「死んでしまう前に出会えた」っていうことですよね。
だけど、その「死んでしまう前に」っていうのを、アヴちゃんは「ただ増えてゆくようで減ってゆく日々を使い果たさず」って表現したんですよね。

日々過ごしていると、何かを努力したり積み重ねたりすることもあるじゃないですか。そうすると人生でなにかが「増えてゆく」っていう感覚になることもあるんじゃないかと思うんです。(私は実際にはあんまりないけど・笑)だけど、人生の残りの日々っていうのは確実に「減ってゆく」わけですよね。そしていつかは「使い果たす」わけです。

だからアヴちゃんはこのワンフレーズで、何かが「増えてゆく」ような感覚、達成感とか喜びとか希望とかと、人生の残りの日々は「減ってゆく」っていう抗うことのできない現実と悲しみと切なさを、両方歌っているんです。そしてその上で、「使い果たさず出会えた」っていうことを自分の中で宝石のように輝かせて歌っているんですよ。

こりゃすごいな、って思いました。まず自分の五感でしっかり何かを感じて、そしてそれを自分の言葉で丁寧に且つ簡潔に表現する、っていうのを完璧に出来ている人ってなかなかいないと思います。アヴちゃんは、自分が個人として感じたことを、アヴちゃんという個人でなければ出てこない形で表現しているから、どこをどう切り取ってもオリジナルなんですよね。だからワンフレーズ聴いただけでも存在感が圧倒的で、「じーん」としてしまう、胸にくるんだなと思いました。


最近だと、最新曲『催眠術』の「飲み干すアルコール/どこまで歩こう」っていう歌詞にも、すごくグッときちゃいました。一見なんてことのない歌詞だし、韻の踏み方だってよくある感じなんですけど、アルコールを「飲み干す」ときのあの勢いと、アルコールを体に注入した後の、どこまでも歩いていけそうなあの感覚で歩くときの勢いが、見事にリンクしているなあって思ったんです。あと、どんな気分でアルコールを飲み干したのかも、いろんな想像ができるじゃないですか。楽しいのかもしれないし、すごく嫌なことや悲しいことがあったのかもしれないし。なんかモヤモヤしているのかもしれないし。聴いた人がいろんな感情をワンフレーズに詰め込めるし、そしてどんな感情だったとしてもそれを吹き飛ばして一緒にどこまでも歩いてくれるような勢いと強度もあって。なんかもうすごく素敵だなって思いました。


[rakuten:dorama:13843393:detail]



syrup16gなりのDISCOと激励

2015年11月3日、「the telephones Presents "Last Party〜We are DISCO!!!〜”」@さいたまスーパーアリーナに行ってきました。the telephonesが無期限活動休止に入る前の、ラストイベントです。

主催のthe telephonesは、かねてから「この日は同じ時代を走って来た仲間と埼玉の先輩をまねく」と宣言していたんですが、この「埼玉の先輩」として出演したのが、dustboxsyrup16gだったんですね。

で、イベント全部について書いてるとおそろしく長くなっちゃいそうなので、生粋のぷっしろファンの私はsyrup16gのライブについてだけ書いておこうと思います。

セットリストはこんな感じでした。


  1 生きているよりマシさ
  2 sonic disorder
  3 生活
  4 神のカルマ
  5 リアル
  6 Reborn


1曲目はステージ前面に紗幕が掛かったまま演奏し続け、曲が終わるころ紗幕にシルエットが映り、2曲目「sonic disorder」の始まりで紗幕が落ちるっていう演出。

   「あれ、これどこかで見たことある気がする・・・デジャヴ?」

って、そう、これ、五十嵐隆「生還」の始まりと同じ演出だったんです。
「生還」でシルエットが映ってからの紗幕が落ちた瞬間は、特別なシーンですよね。ステージに五十嵐隆だけじゃなくて、中畑大樹キタダマキがいるってことをファンが認識した瞬間ですからね。そんで、今から考えるとsyrup16g再始動へのはじまりとも言える、象徴的なシーンでした。

誰もが願っていたけれど誰もが半ば諦めていたsyrup16gの復活。その始まりである「生還」のオープニングを再現するということ。それは、テレフォンズとテレフォンズのファンに「バンドは必ず復活できるよ」っていうメッセージを送っているみたいに見えました。

セットリストも、ぜんぶ(シロップの中では)有名な曲ですよね。これも、多少テレフォンズのファンのことを考えて、知っている可能性が高い曲を選んだ結果なのかな〜と思いました。

あと、MC。シロップは、普段のライブではMCが少ないんですよね。「ありがとう」だけで終わることもよくあるくらいですからね。しかも再始動後のライブはずっとワンマンのみで、こういった多数のバンドが出演するイベントに出るのは初めてだったので、「もしかしてMC無しかもな・・・」なんて思っていたんです。

ところが、この日の五十嵐隆は違ったんですよ。

「テレフォンズとは全然世代が違うんですけど、使っているスタジオが一緒だったりして、こうやって義理堅く呼んでくれてありがとうございます。また対バンしてもらえるように、僕もみなさんと一緒に復活を待ちたいと思います。」

って言ったんです。

で、そのあとに演奏されたのは「Reborn」でした。syrup16gが「Reborn」をやるのは、いつも誰かのためなんじゃないかと思うんですね。そもそもが元ベースの佐藤さんのことを歌った曲だし、武道館では客電が全て点いたあの光景をファンに見せるためだったし、生還でも待っていたファンやスタッフのためだったんじゃないかと思うんです。そんで、今回の「Reborn」は、たぶんテレフォンズとテレフォンズのファンに向けてですよね。テレフォンズとテレフォンズのファンが「昨日より今日が素晴らしい日」だって明日からも思えるように。それから、「おれたちが『Reborn』で生還したように、テレフォンズもきっと復活してね」っていうメッセージに聞こえました。

埼玉の先輩らしい、なんて熱いメッセージ。同世代のバンドにはできない、色々色々あったsyrup16gだからこそ言える、説得力があるメッセージだなって思いました。

私はですね、こういうイベントでsyrup16gはしれっと淡々とライブをやるのではないかとなんとなく想像してしまっていたんですよ。ところが蓋を開けてみたら、全然違いました。選曲も演出もMCも演奏もテンションも、テレフォンズへの愛に溢れた暖かいものでした。

この日、ほかのバンドはライブ中にどこかで「DISCO」と叫んでいました。そんななか、syrup16gは一度も「DISCO」と言いませんでした。でもsyrup16gは「リアル」をやることで、syrup16gなりのDISCOを叫んでいた気がします。「リアル」をやっているのを見ているとき、「妄想リアル」もある意味「I am DISCO」だよと思ったんですよ。あの〜、「I am DISCO」って文法めちゃくちゃじゃないですか。「私」が「DISCO」ってないじゃないですか。でもテレフォンズは、音楽でそれを無理矢理「あり」にしちゃったんですよね。そんで、この世界で「もっと SO リアル」にするのも本当は無理な話じゃないですか。でもシロップも自分の全てを音楽に捧げることでそれを現実にしようとしたのがこの曲なんですよね。

天才だけど不器用すぎる人間代表・五十嵐隆は、フェスが大嫌いでした。「犬が吠える」のときには、フェスでやれるような曲が作れたらいいなと思い、一度フェスを含む音楽シーンに適応しようと試みるのですが、結果的にはバンド自体を解散させました。かたや、やはり不器用な石毛輝は、フェス文化の中心にいました。フェスと共に大きくなり、フェスにかかせないバンドであったと思います。そんな絶頂の最中に、テレフォンズは活動休止を決めました。きっと不器用な人間にはいろいろ考えるところがあったのでしょうね。くわしくは知らんけど。

シロップは年に一度ワンマンツアーをするという独自の活動方法で戻ってきてくれました。テレフォンズもいつか戻ってきてほしいです。祭りの中心にいなくてもいい。自分なりの方法で活動してくれたらいいなと願っています。



2015今年の10曲

1 Forever/YKIKI BEAT
2 Butter Sugar Cream/Tomggg
3 Something Good/the telephones
4 Let It Happen/Tame Impala
5 Lifted Up(1985)/Passion Pit
6 逆光/People In The Box
7 Thank you/syrup16g
8 ぼんくらベイビー/土井玄臣
9 dope friction/the north end
10 BLUE/group_inou


1位はYKIKI BEATの「Forever」。

「バンド=かっこいい」という方程式が2015年も存続したのは、YKIKI BEATがいたからです。
2001年のストロークス登場後、「日本からのストロークスへの回答」をいくつものバンドがやってはみてはいたんですね。だけどこれはめちゃくちゃ困難なミッションでした。なぜなら本家がパーフェクトにかっこいいから。「やっぱりストロークスの方が何倍もかっこいいね」となってしまうのです。この「ストロークスへの回答」ミュージックを聴いてモヤモヤするという状況は、2000年代初頭から十数年にわたって私の中で続いていました。そして時は経ち2015年、この状況についに華麗に終止符を打ったのがYKIKI BEATでした。
あ〜かっこいいな〜。特に「Forever」は、どこをどう切り取ってもかっこいいです。かっこよすぎて、聴いているとき何度も「フフっ」て笑いました。人はかっこよすぎる音楽を聴くと笑ってしまいます。


2位はTomgggの「Butter Sugar Cream」。

これは曲のクオリティーに驚かされました。音と音の間隔の絶妙さ、音の軽やかさと華やかさ、品の良さ。それらが絡み合って、何度聴いても色褪せず、何年も耐えうるだろう強度を持ったトラックになっています。
丸みのある電子音楽は、rei harakamiから続く、日本の音楽の一ジャンルになりつつあるのではないかと思っています。そのなかで「Butter Sugar Cream」は2015年現在の最先端だと思います。
かわいい、しなやか、絶妙な間。日本の美の三拍子が揃った、国宝みたいな曲です。


3位はthe telephonesの「Something Good」。

「Something good for you/Someday we will die」という必殺フレーズ。すべてはこれに尽きます。2015年のみならず、これまでの人生の中でも、トップレベルの必殺フレーズでした。石毛輝という人間が音楽をやってきた理由と歴史、思いのすべてが、ここに詰まっている気がしました。それは私が音楽を聴いてきた理由とも一致していました。
「Something Good」はthe telephonesをまるごと表しているかのような曲だと思いました。究極にエモくて、究極にせつなくて、究極の愛がある。そういうバンドだったように思います。不器用にでも音楽を愛していたthe telephonesと、かつての自分に「おつかれさま」と言って2015年を終えたいと思います。









「逆光」People In The Box

 People In The Boxの「逆光」という曲は、異常に美しい。美しいが、近寄りがたいアートではなく、キャッチーでもある。思い返してみれば、いつも People In The Box の曲は、崇高なアートになりそうなところのギリギリでそうはならなかった。どこかでひらりとかわして、何度も聴きたくなるような側面を備えた曲に必ずなっていた。これは、People In The Box が常に「ポップミュージックをつくる」ということに意識的だったからではないかと考える。しかし、ひとくちに「ポップミュージック」と言っても様々な形態や種類があり、People In The Box の歴史の中でも変遷があったように思う。

 初期の People In The Box の楽曲では、1曲に非常に多くの情報が詰め込まれていた。それぞれの楽器の情報量は「3ピースとは思えない」というお決まりの枕詞から想像する範囲を越えていたし、歌詞においてもポエトリーディングのような体裁で大量の言葉が詰め込まれることもあった。しかし、その情報量によって難解で重苦しくならないように、高度な演奏と卓越したセンスと持ち前のユーモアさを駆使して、ポップミュージックとして成形していた。その楽曲のあり方は、ある面から見れば「残響レコード的」とも言えるし、ある面から見れば「20代的」と言うこともできるだろう。攻撃性や、持ちうる力と見解の全てを注ぎ込もうとする姿勢は、複雑ゆえに快楽性の高いポップミュージックを作ることを成功させた。

 People In The Box が、このような初期の楽曲とは種類の異なるポップミュージックを作るようになったのは、震災以後だ。作品で言うと「Lovely Taboos」からである。震災以後の作品は、一聴すると情報量は減り、穏やかになったように聴こえる。しかし、それは、言葉やフレーズやリズムやBPMといった一つ一つの要素を非常に注意深く選ぶことによって、美しい水面を描いているからそう聴こえるだけである。その水面下には深い未知の世界があり、聴いた人がどこまでも潜っていくことができるように作られている。初期の、聴いて即喜怒哀楽を得られる音楽とはまた別の、潜った者だけが様々な感情に触れることができる音楽である。なかでも「潜水」(Album「Weather Report」収録)は、シンプルさと深みを極めているポップミュージックだと感じた。その美しさやスルっと聴くことができる感触は、あえて例えるならば Prefab Sprout のようなポップさだと思った。

 そして先日リリースされた「Talky Organs」に収録されている「逆光」は、People In The Box が震災以降作り続けてきたポップミュージックの結晶のような曲だと思った。なんて研ぎすまされていて、なんて純度が高いのだろう。

 サビのメロディーの息を呑む美しさ。実際に眼前を照射されているような目映さ。その美しさと目映さは、ある時は聴いた人を圧倒し、ある時は聴いた人の視線の向いた先に光を激しく浴びせる。

最初はその光の目映さに圧倒される。だが、次第に、People In The Box はこの曲の中で、様々な方向から光を当てていること、また、それだけでなく、その光源にレンズを向けてみせていることが分かる。逆光を利用して写真を撮影すると、被写体は暗くなり、シルエットが強調されるが、People In The Boxもそういった効果を見据えているのだろうか。実際、この曲を聴いていると、いくつものシルエットが次々に現れる。

 たとえば、サビの「20世紀」は日本語で歌われ、「21st」は英語で歌われる。それは、20世紀は国内で視線を浴びせ合っていたのが、21世紀では世界から視線を浴びせられることを表しているように感じた。グローバル化が進むにつれ、居心地の良かった闇にさえ、光を当てられてしまい、馬車は空白の万博に集結する。以前、People In The Boxは「ニムロッド」という曲で、「飛行船は空白を目指す」と歌っていた。「空白」とは、実態のない何かであり、「逆光」で「残された欲望は人のではない」と歌われているような、システムの中で肥大化する欲望のことなのだろう。その「空白」(虚無的な欲望)を目指すものが、飛行船から馬車へと代わっている。馬車の方が、なんというか、飛行船に比べて前近代的であり、ドタドタしていて、野性的だ。現代のシステムの中で膨張し続ける実態のない欲望に向かって集結するのは、前近代的で野生の塊のような思考だということなのだろうか。

 あるいは、20世紀から21世紀に向けて光を当てたり、21世紀から20世紀に向けて光を当てたりしてみているようにも聴こえる。時間軸のどの時点から光を当てるか、空間軸のどの場所から光を当てるかによって、歴史や現在はその姿を変えるし、生じる盲点も違うことに気づく。

 今や、People In The Box の曲は、だまし絵のようだ。そこに答えはない。見る人の視線次第で姿は変わる。人が一個人として、野生を持った一匹の動物として、自分の視点から「見る」ことの重要性を、People In The Box は体現している。「見られる」ことに意識的になりすぎている時代に、自らが「見る」立場になり、自分の場所から徹底して見ることが、システムに振り回されず、光の主導権を取り戻せる方法なのだと気づかせてくれる。

 この曲の最後で、People In The Box は「眩しすぎてなにも見えない」と歌う。渦中にいるとき、人の視線ばかりが気になって、自分が光の先を見ることを、人は怠ってしまう。光の中に飛び込むときには「獣の瞳で照射せよ」と唱えてからにした方が、きっといい。

Talky Organs

Talky Organs



2013年へ

恒例のやつです。

邦楽10枚

■「無題 第5作品集」downy
■「about your spring」IRIKO
■「neuron」sleepy.ab
■「TERRAFORMING(alternative)」まつきあゆむ
■「The Illuminated Nightingale」土井玄臣
■「Weather Report」People In The Box
■「小さな生き物」スピッツ
■「usurebi」Ropes
■「HOWL」dip
■「youth(青春)」bloodthirsty butchers

洋楽10枚

■「Woman」Rhye
■「Reflektor」Arcade Fire
■「MBV」My Bloody Valentine
■「Time For A Change」Elephanz
■「No Blues」Los Campesinos!
■「Electric」Pet Shop Boys
■「Crimson/Red」Prefab Sprout
■「Cerulean Salt」Waxahatchee
■「AM」Arctic Monkeys
■「Monomania」deerhunter


「Jack Nicolson」bloodthirsty butchers

僕はどんどんと年をとっていく訳で
作るものはどんどんと色褪せる
君がその先大人になっても
悪い大人の手本でいたいんだ

うるさいと思われてもわがままと思われ
のたれ死んでしまうかもしれないが
このスピードを 保っていたい
このバンドで 踏み込んでいたい
行くさ

ダメと言われりゃ意地クソ張ってでも
繰り返しの様な人生に見えても
君がこの先大人になっても
悪い大人の手本でいたいんだ

しょうがないと思われても面倒くさいと思え
のたれ死んでしまうかもしれないが
このスピードを 保っていたい
このバンドで 存在していたい
行くさ